週刊誌の役割

極東ブログさんの記事が大変面白かった。衝撃の新事実(笑劇の新事実)。週刊誌もこういうところにもっと力を入れると存在意義が十二分に出てくると思う。一つ一つの意見の背後を地道に追っていくということ。以下、記録をかねて長々と引用させていただきます。

文春の記事は飛ばしネタかなと思ってざっと読んでみた。総じて言うと飛ばしネタです。でも、ふーんと思うことがあった。例の一ヶ月英国滞在の話の信憑性に疑問を投げている点だ。

 しかし、そもそも本当に一ヶ月間、英国滞在していたのかが疑問なのだ。厚労省は亡くなった男性が英国にいたという確実な証拠をまだ何一つ掴んでいないという。ある政府関係者が衝撃の事実を話す。

 衝撃は笑劇の誤字かもしれないけど、こういうことらしい。まず、事実関係で重要なのは、情報の伝達は1月31日だったのかもしれない点。この点は、この問題を扱ったNHKあすを読む」でもそんな印象を受けた。いずれにせよ、ヤコブ病の委員会から厚労省に報告が出された。

 知らせを受けた関係者が最も懸念したのは、狂牛病患者が出たことによる国産牛乳肉の風評被害。それを食い止めるために英国で感染したことにしようという運びになったのです。

 ほんとかねと思うが、記事によると、この英国渡航歴は、患者の七十歳を越えた父親からの聞き取り調査だけらしい。

 実は、そうなんじゃないかと私も思っていた。というのは、4日のニュース発表のトーンが変だったからだ。どう変かというと、例えば共同"国内初の変異型ヤコブ病 男性死亡、英国感染が有力"(参照)ではこう。まず、標題のようにその情報が有力というだけのこと。

昨年12月に死亡した50代の男性で、主治医の報告によると、牛のBSEが大流行していた1989年に英国に1カ月間滞在したという。

 確定診断した同省疾病対策部会CJD等委員会委員長の北本哲之・東北大医学部教授は記者会見で「ヨーロッパ以外の変異型の患者は全員、英国滞在歴があり、この患者も英国で感染した可能性が有力」と話した。

 時期が曖昧なのは渡航記録から確認されたわけではないことを意味しているのだろう。記事を見るとわかるように、結果からトラックバックしてできた話の印象も受ける。

 そのあと、患者についてのさらなる調査が必要だとも言われたが、一応、この患者が献血などしてないかという文脈に置かれた。

 その後、どうなのだろうか。渡航は確認されたのだろうか。すでに確認済みなら、この仮説はそれなりに重みがあるにはある。

 記事にも触れているが、ヨーロッパ以外の変異型ヤコブ病の患者は全員英国滞在歴があるものの、一ヶ月滞在で感染した例はない。もちろん、ヤコブ病の感染は、実験的な類推では滞在期間によるのではなく、危険部位の摂取にあるとは言える。でも、この日本の厚労省の発表を聞いて、欧米の学者は眉をしかめたのではないかと思う。ただ、その様子の報道は欧米圏からはわからなかった。そんなことはなかったということかもしれない。

 文春の記事では、青山学院大学福岡伸一教授のコメントにつなげて、日本でも全頭検査開始前の牛が摂取されていた可能性を示唆している。

 で、ここで私としては、ちょっと苦笑してしまうのだが、私は全頭検査にはまるで意味がないと考えている。理由は食品の安全性については、特異な新知見でもない限り、欧米のスタンダードは科学的に妥当だから。全頭検査は無意味ということは、最近、ようやく日本でも広まりつつあると思うが、どうなのだろうか。

 変異型ヤコブ病の感染を防ぐには、危険部位の除去のほうが重要で、この点では、欧米のスタンダードとしてピッシング(pithing)が禁止が推奨されているはずだが、日本ではこの間も継続しているはずだ。現状はどうなのか、ちょっと調べてみたいが、なんで調べるのとか逆に疑われそうで恐い。

 今回のニュースに関して、実態がニュースからよくわからないのだが、先に触れたNHKあすを読む」の話では、当たり前といえば当たり前だが、変異型ヤコブ病の認定は患者の死後解剖が元になっているらしい。生存時の状態では、年齢に比して診断して疑われるというくらいなことのようだ。実際、そういうことなのだろうとは思う。診断は非常に難しいと見ていいのだろう。

 真相はどうかなのだが、今後、変異型ヤコブ病患者が数名出てくるのようなら国内感染が疑わしいということになるだろう。潜伏期間は10年ほどなので、あと数年状況を見守っていくべきかなと思う。

追記(同日)

 ちょっと気になるインフォがあったので、追記。

"ピッシングしていると畜場はいくつ?厚労省農水省のデータは評価に耐えるのか"(参照)

訂正及び追記(12月10日):常々情報を頂いている方から、ピッシングを行っている施設の数についてご指摘を頂いた。上の記事で「11月16日の2回目の会合では、ピッシングをしているのは161施設中49施設と説明された」としたのは、この会合の議事録で「牛を処理すると畜場161 施設中、ピッシング中の施設が49・・・」と書かれていたためであるが、これは「牛を処理すると畜場161 施設中、ピッシング中止の施設が49 」の間違いだろうということである。前後関係からすると、確かにそのようだ。従って、12月6日の会合時に示されたピッシング中止施設45(160-115)と大きくは違わない。ただし、中止を「指導」しているというのに、中止施設が減っている(ピッシングをしている施設が増えている)のは理解できない。指導に逆らい、と畜場のやり方が実際に変わったのか(中止していたのに再開したのか)、それともアンケート用紙のどこに○をつけるかが気まぐれで変わったのか。どっちにしても、リスク評価の材料にするには不確実性が残る。