週刊!木村剛 powered by ココログ: [フィナンシャル ジャパン] 円の凋落は始まっている

リンク: 週刊!木村剛 powered by ココログ: [フィナンシャル ジャパン] 円の凋落は始まっている.

[フィナンシャル ジャパン] 円の凋落は始まっている

  「フィナンシャル ジャパン」11月号掲載  
  『伯楽諫言』 (木村 剛 FJ編集長)
 
 先日、今年3月末時点において世界各国が保有する外貨準備の内容が公表された。最悪の事態に備えて国家として保有する「外貨」であるだけに、保有通貨として選択されることには相当の意義がある。

 結果を見ると、第1位はやはり米ドルで、66.3%と昨年よりも1.0%ポイント分だけシェアを拡大した。「双子の赤字がどうだ」「景気が腰折れするんじゃないか」などと騒いでみたところで、世界最強の軍隊と外交力と情報力を持つ米国のことを、各国の当局が信用していることが改めて示された。
 第2位は24.8%のユーロ。欧州単一通貨として誕生したユーロは、創設当初の不評を乗り越え、ドルに次ぐ国際通貨のポジションを堅実に保っている。ショッキングだったのは、長らく第3位の地位を保ってきた日本円が、英ポンド(4.0%)に抜かれて第4位に落ち込んでいること。シェアは3.4%と1年前より0.5%ポイント低下している。
 スウェーデン中央銀行が日本円をゼロにしてユーロの比率を高めるなど、日本円の残高(米ドルベース)が1年前より約7%落ちたことが気にかかる。円安傾向を反映した面はあるが、外貨準備が世界全体で9%増えている中での出来事を過小評価すべきではない。
 英国のGDP(国内総生産)は、日本の二分の一以下。5年前はこうした経済格差を反映して、英ポンドの外貨準備シェアは日本円の約半分だった。しかし、世界の当局者が見た日本経済の実力は、その程度のレベルにまで落ちてしまった。それが日本に突きつけられている現実なのである。日本国内では、「いざなぎ景気を抜くかどうか」などという極めてのどかな話が交わされるだけだが、世界のプロたちの厳しい目は、短期的な景気の綾には
見向きもせず、日本円の本質的な価値が剥落する可能性を冷徹に見つめている。
 世界で最も過酷な少子高齢化を迎える中で、財政実態が惨憺たるありさまなのに、構造改革がちょっぴり進んで景気が持ち直しただけで、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という雰囲気になり、お上に全部依存するという回帰現象が見られる。そういう情けない国の通貨を「長期的に持っていたい」と思うお人好し国家は完全な少数派。
核兵器も、弾道ミサイルも、テロを未然に防止する特殊部隊も、世界に誇れる諜報組織も持たないで、エネルギー(自給率16%)と食料(同40%)の大部分を外国に依存しているわが国が、厳しく変遷していく世界情勢の中で生き残っていくには経済力しかない。
 その経済力が、少子高齢化によって、中長期的に劣化していくという国家的な危機に直面しているにもかかわらず、危機感は希薄。未来を切り拓く新興企業をサポートせず、既存勢力を温存するばかりでは、国の活力がわき起こることはない。輸出入における円建て比率もジリジリと下がっている。
 遠くない将来、中国経済はGDPで日本経済を軽やかに追い抜いていく。そのとき、アジアの基軸通貨人民元になる。ローカルカレンシーに堕した日本円は、さらに本質的価値を失っていくだろう。今月誕生した新政権が、通貨主権の重要性に気付いて対策を講じなければ、円の長期的な凋落傾向は止まるまい。