ブログと国際金融

 ブログ(blog、あるいはブロッグ)あるいはブロッギング(blogging)という言葉がよく使われるようになった。ブログとはウエブログ(weblog)の略で、個人のホームページで様々な話題について情報源(URL address)も示しながら意見や感想を載せ、頻繁に更新するもの、といった説明で良い様だ。Bloglineが最古参のサービス提供者の様である。日本でもニフティ他無料、有料取り混ぜてかなりの数のサービス提供者が既に存在し利用者も拡大している。

 ブログの持つ魅力として、技術的な知識がなくとも、誰でも簡単に記事ページを追加編集することができる。インターネットに自分のウエブサイトを持とうとすると、自分でソフトウエアを購入して記事を作成する必要があっが、ブログには、誰もが記事を公開できる手軽さがある。

 また、ブログにはコミュニケーション機能がある。お互いに「コメント」あるいは「トラックバック」と呼ばれる機能を使ってブロッガー同士が直接意見交換を行うことが可能である。また、ブログでは、投稿された記事の要旨をRSSRDF Site Summary)と呼ばれる標準化されたデータ形式で配受信することができる。RSSリーダーと呼ばれる専用の閲覧アプリケーションを立ち上げてインターネットにアクセスすると、Webブラウザーを起動しなくとも、自分が定期的に閲覧したい複数のブログサイトのサマリーを一度に閲覧することができる。新しく投稿された記事があればその要旨が表示され、それを見て実際に詳細を読みたければそのWebを訪問すればよい。

 日本のブログサービスに載っている多くのブログは、日記帳の公開といった性格のものである。ところが、いろいろな研究分野で既にブログは相当使われている。国際金融関係でも、アジア通貨危機後情報掲載の充実さでそのサイトが知られているニューヨーク大学のRoubini教授もブログを開設している(http://www.roubiniglobal.com/)。この他にRoubini教授と共同研究などを行っているBrad Sester氏(http://www.roubiniglobal.com/setser/)等々、実際にかなりの利用がされているようだ。

 われわれのような仕事では、実務上の経験を大切にしながらプラクティカルな提案を行う機会が多くなる。おかげさまで、例えばfact findingにかかる部分についても英文でメモを書けば東アジア各国の関係者に送って意見を求めることが比較的容易に行えるようになった。特に、テキストファイルの入った電子ファイルを送付すると、数日後あるいは即日コメントをもらうことができたり、以前には考えられなかったようなスピードで双方向のコミュニケーションが可能になっている。この点、Foreign Policy誌の2004年11-12月号に掲載されているDaniel W. Drezner氏及びHenry Farrell氏によるWeb of Influenceはブログの基本を解説した後、イラク戦争等を例にとりながらオピニオン形成に与える影響とその問題点を鋭く分析しており、興味深い。

 実務関係を含め国際金融の分野でも課題は多く、日本に関係するものも少なくない。しかし、一部の分野を除き、引き続き先進国特に欧米勢に席巻されている状況が続いているのではないだろうか。これに対抗していくには、英語でその輪の中に入って議論を行う他ない。これまでは、英語で発信し、英語で議論することの大切さが説かれてきた。しかし、ブログの様な形態が一般的になると、自分の意見を述べるだけでなく相手が発信してくればこれに対して短期間に反論する必要が生じる。数週間といった単位ではなくせいぜい数日単位しか時間の余裕はない。反論しなければ意見交換しているブロッガー達によってオピニオンが形成されていくことになりかねない。

 また、ブログには言葉以外に難しい問題がある。組織に属する人間の場合に、組織以外に個人でブログを開設して仕事に関係することを論じていけるかという問題がある。Sun Microsystemsの場合は、掲載されているものは全て個人のものと断りながら一覧できるブログを開設している(http://blog.sun.com/roller/)がこれは例外的だろう。シンクタンクといっても、独立性が弱ければこういった活動には限界があろう。しかし、やってみる価値のある取り組みと言えよう。

 幸い、利用する英語は書き言葉である。学校での文法に重点を置いた英語教育をきちんと受けた日本人にとっては、やがて習熟してくるはずだ。欧米人と仕事をする時間帯が異なるので、これを利した「時間差応酬」が可能だろう。東アジアにおいても、日本勢が先頭にたって進めるべき分野で、ブログの活用を実行に移すべきだろう。ただ、そのためには対象となる分野での最低限の知識、経験は必須である。目の前で展開されるブログの応酬を見守りながら、ここぞというときにはこれに参加するというやりかたも考えられよう。お気に入りのブログのチェックを毎朝行っている市場関係者も既にいるのではないだろうか。

(2005年1月TRI国際金融トピックスに寄稿したもの。)