subprime loan備忘(14-15日朝)

Martin WolfのFear makes a welcome return (8月14日付ですから15日配達のFTに掲載)を取り上げ必読としているブログが複数あります。subprime loanに発する今回の危機を2000ー2010の複数先進国の不動産バブルとして、今世界が抱える構造的問題に及んでいます。途中で、7月下旬にセントルイス連銀のPoole総裁が、「連銀が市場の変動(upsets)に対処するのは、価格の安定や高水準の雇用の維持あるいといった基本的な目標の達成を危うくする脅威がある場合、あるいは、金融市場の動きが市場のプロセス自体を脅かす場合に限られるべき。」としたことを取り上げ、これに彼自身がその当時賛同したことを説明しています。hedge fund managerのJim Craemerが、Bernenke議長は学者さんだ、私の同僚達はこのビジネスに25年従事しているが、Bernankeは何もわかっていない。FEDは眠りこけていたんだ、と激しく非難したことも取り上げています。

関係者の利害が対立し、いわゆるモラルハザードの問題も発生しかねないところでFRBの対応には難しいものがあります。しかしまず金融市場混乱を沈静化させ、ついで再発防止策に取り組むべきではないでしょうか。

なお、Poole総裁の演説はsubprime loan関係の基本的な用語解説になっている部分もあってその意味では貴重ですね。

また、格付機関のsubprime loanへの対応も問題になりはじめました。WSJのHow rating firms' calls fueled subprime mess(15日付)という記事はこれを丁寧に解説してくれています。2000年当時はSand Pは借り手がpiggybackとよばれる、最初の支払いにあてるために第二の借入を行うことを認めていたのですが、6年後にはこの見解を改めました。しかしそのときまでに既にそういった融資が相当増加してしまっていたと説明しています。
むろんFannie MaeやFreddie Macはこういったpiggyback付きのポートフォリオは購入しないのですが、証券化によってより高い利回りが得られることでこれを組み込んだMBSは投資家の引き合いも強かったようです。2001年にはS and Pが、piggyback付きのポートフォリオについてはpiggyback部分が全体の20%を超えなければ問題なし(did not penalize)としていて、この前提を数年間変更しなかったようです。

実際にsubprime loanで格付機関が手にすることのできる手数料は、伝統的なビジネスの約2倍だったとのことです。証券化が始まった初期の段階では格付機関が必要なhistorical dataの提供を貸してや引受業者に求めていたようです。また、引受業者は期待している格付が得られないと格付機関を変更していたようです。

2006年までに Sand Pは、piggyback付きのloanの焦げつき確率がそうでないものに比べて43%高いとの内部調査を行い、同年4月には7月までに引き受け業者が新しいmortgage portfolio に含めるべき担保を引き上げることを明らかにしました。しかし、S and Pは既存の証券化商品の格付は引き下げなかったとのことです。さらに細かい記述がありますが、印象を含めてまとめてみると、、
・S and Pは内部検討はしていたものの、実際に事実として延滞率が上昇しないことには格付の変更などに踏み切ることが出来なかった。
・2007年3月にはS and Pの見通しとして、住宅価格が2007年中は横ばい、しかし、2008年には3-4%上昇すると発表。これを7月初めまでに引き下げ、2007年中に2006年のピークから2008年第一四半期にかけて8%下落を予想。このあと債務不履行などが増加。subprime loanを供与する側でも延滞が急増。これがS and Pの予想を遙かに上回った。
・S and PはいくつかのA- の格付を5段階引き下げてBBとした。

というところでしょうか。

格付機関の役割には非常に難しい部分があります。まるで、アジア通貨危機の再来と思われるような、一見「後付け」の格付の大幅引き下げです。事実を確認した上で格付の見直しを行おうとしているのでしょうが、第三者の目から見ると、市場の悪化を後追いして格付を引き下げているとしか見られない部分があります。しかし、格付機関の発表するものを注意深く読んでいれば、少なくとも業界関係者は今回の危機を予測できたのかもしれません。