法務 Q&A

リンク: 法務 Q&A.

Question

日本政府が締結を進めているEPA(経済連携協定)について、企業への影響や活用にあたっての留意点を教えてください。

Answer

 2006年7月にWTO(世界貿易機関)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)が中断した状況において、WTOにおける多角的自由貿易体制の補完的機能を果たすFTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)やEPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)に注目が集まっています。FTAは、産品の関税やサービスへの外資規制の削減・撤廃を目的とする協定です。これに対して日本が現在、各国・地域と締結または交渉を進めているEPAは、FTAの上記対象分野に加えて、投資規制の撤廃・投資ルールの整備、知的財産制度や競争政策の調和、農林水産業・情報通信技術などにおける協力といった分野もカバーしており、FTAよりも幅広い経済関係の強化を目的としています。

 日本が締結したEPAで現在発効している国は、まだシンガポール、メキシコ、マレーシアの3カ国ですが、2006年9月にフィリピンと署名し、2007年中の発効を目指しています。また、タイとは協定内容がほぼ確定しており、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドネシア、ブルネイ、チリなどとも交渉中です。交渉開始予定の国・地域も複数あり、日本が締結するEPAは、今後着実に増加する見込みです。このため、EPA締約国・地域との投資・貿易活動を行う企業にとって、EPAを理解することは非常に有益です。

 モノの貿易について言えば、これらのEPAに基づく特恵関税により、産品によっては、無税または通常よりも低い税率で輸入または輸出することが可能になります。また例えば、日タイEPAが発効すれば、タイの生産拠点に日本から特恵関税で部品を輸入して現地で完成品を生産し、タイがFTAを締結する国・地域(例えばASEAN域内、オーストラリア、インド)に、当該FTAに基づく特恵関税でその完成品を輸出するといったことも、産品によってはできるようになります。もちろん、その完成品を日タイEPAに基づく特恵関税で日本に輸出することも可能です。

 ところで、EPAによる特恵関税で輸入するためには、対象となる産品について各EPAで定められている「原産地規則」を満たす必要があります。WTOでは、WTO加盟国の産品であれば、最恵国待遇原則によりどの加盟国の産品を輸入するにしても同じ関税率が適用されるため、原産地規則はさほど大きな意味を持ちません。これに対してEPAでは、協定で定められた原産品についてのみ特恵関税で輸入できることになるため、原産品であるか否かを判定するためのルールである原産地規則が、非常に重要な意味を持ってきます。また原産地規則は、EPAの締約国でない国で実質的に生産された産品が、一方の締約国を経由して他方の締約国に特恵関税で迂回輸入されることを防止する意義もあります。

 この原産地規則の詳細までは紙面の関係で説明できませんが、大枠を申し上げれば、農林水産品は一方の締約国で完全に得られるか、生産された産品であることを要件とする「完全生産(品)基準」がほとんどです。

 一方、鉱工業品は、EPAの締約国で非原産材料(例えば中国産の部品)を使用して十分な生産が行われたか否かを判定する基準として、一般的には(1)「関税番号変更基準」(締約国での十分な生産の結果、産品の関税番号と使用された材料の関税番号とが異なる分類に属する場合に原産品とする基準)と(2)「付加価値基準」(締約国での十分な生産の結果、産品に付加された価値が一定の比率以上になる場合に原産品とする基準)――が用いられています。このため、材料の調達先の管理と生産コストの管理を行い、基準の判定をしやすくしておく必要があります。また、原産地規則には、累積規定(例えば、日本で生産する完成品の材料として使用される日本以外の締約国の原産品である部品は、日本の原産品とみなされます)や生産・物流の工程を勘案して計算をしやすくする規定が設けられており、これらのルールを適用して、原産品にする機会を増やすこともできます。

 EPAの特恵関税で輸入するためには、輸出締約国の原産地証明書発給機関に、輸出者または生産者が輸出しようとする産品が原産品であることを証明する資料を提出して、原産地証明書を発給してもらい、輸入申告の際に税関にその原産地証明書を提出する必要があります。日本では全国の主な商工会議所で発給してもらえますが、発給に際しては手数料がかかります。各EPAによって手数料が異なりますので、商工会議所に問い合わせるとよいでしょう。

 なお、日本の法律では、虚偽の申請書または資料を提出した場合や、原産地証明書の発給後に原産品でないことを知ったにもかかわらず発給機関に通知しなかった場合には、罰則が適用されるので注意が必要です(経済連携協定に基づく特定原産地証明書の発給等に関する法律第36条1項、第37条参照)。