今すぐは難しい人民元の国際通貨化|Klug クルーク

リンク: 今すぐは難しい人民元の国際通貨化|Klug クルーク.

今すぐは難しい人民元の国際通貨化

マスコミ報道によると、中国人民銀行金融研究所の名誉所長を勤めた趙海寛氏は、新聞記者の取材に対し、人民元が国際通貨になる条件は整いつつあり、中国政府は人民元の国際通貨化プロセスの加速に力を入れるべきとの見解を示しました。

趙氏は、1998年のアジア危機で人民元の切り下げをしなかったことや、中国の経済規模が世界のトップクラスに成長したことで、人民元の信用力は高くなったとコメントしています。そして趙氏は、中国政府が人民元レートを変動相場制に移行させれば、人民元は国際通貨として利用されるだろうと見通しています。

国際通貨とは、(その名の通り)国際的に取引される通貨のことを指します。国際的に取引されるためには世界各国の銀行で取り扱われる必要があるため、国際通貨として認知されるためには、他国通貨と円滑に交換(換金化)できることが条件となります。このため、趙氏が指摘するように、人民元が国際通貨になるためには、人民元レートを変動相場制に移行させ、人民元を他国通貨と円滑に交換できる環境を整える必要はあるといえます。

趙氏は、中国人民銀行金融研究所の名誉所長を勤めたくらいですから、中国という国家にそれなりのプライドを持っていると思われ、中国の通貨である人民元を応援したくなる気持ちも理解できなくはありません。ただ、趙氏が主張するように、中国政府が人民元を国際通貨とすべく、人民元レートを変動相場制にすると、人民元が予想以上に大きく上昇し、結果として中国経済の安定化を阻害することになるかもしれません。

現在、人民元レートは、前の日に比べ0.3%の変動に抑えられている状況ですが、それでも、人民元はジリジリと上昇を続けています。2月の中国の貿易黒字が237億6000万ドルと過去2番目の高水準に達するなど、人民元の上昇圧力は依然として強いままです。あくまで推測でしかないのですが、こうした状況で人民元が変動相場制に移行すれば、(これまで抑制されていたこともあって)人民元は予想以上に大きく上昇する可能性は捨て切れません。

人民元の大幅な上昇は、過熱気味の中国株に冷水をかけることになるかもしれません。人民元が大きく上昇すれば、外貨建てでみた中国株価は大きく上昇します。すでにある程度の利益を確保しているだけに、これまで中国株を牽引してきた外国人投資家が、中国株の売却に動く可能性もあります。

人民元の上昇圧力が強い以上、中国経済を安定的に運営したいのであれば、中国政府は、人民元の変動幅を今のように小さくし、人民元を徐々に上昇させるのが現実的のように思えます。人民元の国際通貨化は、しばらくお預けなのかもしれません。

村田雅志(むらた・まさし)