和田秀樹さん 精神科医は信用できるか 「心のかかりつけ医」の見つけ方を読んで

和田さんの本は読んで損をしたという思いにかられることがまずない、安定して読後爽快感を期待できる書き手の一人だ。出だし、中高年の場合、神経伝達物質が減るのに加えて、気力や体力が衰え、脳そのものの予備力(脳機能の余力)も悪くなる。ところが日本では、受診者が少ない。5人に一人という計算。企業経営が米国型になったのであれば、米国並みに、経営者をサポートする精神科医やカウンセラーを用意する必要がある。
和田さんは、安倍前首相は辞任当時うつ病にかかっていた可能性が高いとする。うつ病の場合は、用意された原稿は読むことはできても、思考力の低下や精神運動制止のために、受け答えがしどろもどろになることが多い。日頃から精神科医がついていれば、もっと早くドクターストップをかけるなり、投薬によって国会会期末ぐらいまでは乗り切らせることが可能だったとする。機能性胃腸障害も、うつ病でも同じような症状が出ることは少なくない。几帳面でまじめな人はうつ病にかかりやすい。かくあるべしという強い理念を持っているひとに限って、その理想が破綻したとたんに罹病するケースが多い。また、物事を白か黒かで単純化してみる二分割思考に陥りやすいという。そして、体調が回復した時点で記者会見を開き、経過を説明し、もっと早く治療を受けるべきだったと語って欲しいという。これにより、うつ病に対する一般の理解、認識が深まれば、より多くの人が受診し自殺も減少しよう、とする。説得力のある話だと思う。精神科は和田氏の固有の専門領域だけに説得力のある議論が後半まで展開される。しかし、後半への興味を維持させたのはこの序盤のいくつかのエピソードであった。