21世紀日本の自画像最終回

4日放送のNHKラジオ番組。かなり詳細にメモを取った。寺島実郎さんの存在感が最近とみに増しているが、最終回という今回の番組を聴く限りは寺島さんによる総括といった印象。

外交や安全保障を含めた国家の基本戦略を今回はテーマ
どのような国として生きていこうとしているのか?イラクの国作りも平坦ではなく暴力や戦火からの処方箋がない。ブット元首相暗殺。暴力と流血への解決は見えない。しかし、テロとの戦いの後に向けて舵取りが既に取られているとの話もある。そこで日本はどうすべきか?
日本総合研究所会長 寺島実郎 
木村知義(司会進行、お名前が間違っていたらごめんなさい)

木村:変わる世界、時代の転換点という設定をしたが、何を考えるのか。21世紀になって7年間同世界は変わったか。
寺島:まず9.11が起きた。逆上する米国、アフガニスタン、イラク、パキスタンとも米国の思うに任せず。アフガン、イラクで4千数百人の戦死者。19世紀100年間でなくなった人を上回る戦死者。かつ米国のリーダーとしての地位揺らぐ。3.5%の成長はあるもののマネーゲームの肥大化。たとえば、株式市場の時価の伸びは年平均14%、上海については6倍に。実体経済を遙かに上回る金融経済の肥大化。それが大きな限界に気付き立ちつくしているのではないだろうか。まさに変わる世界というのはそのような文脈。

木村:そこで背後に登場する問題がグローバリズムグローバリズムは世界を幸せにしたのか?

(感想)
単なる座談ではなくドキュメンタリーを挟んでいる。ここではFX取引を挟んだ。

グローバリズムは、1989年のベルリンの壁の崩壊で、東西冷戦が終わり、その後自由な競争こそが豊かさをもたらすとして、貿易自由化投資の自由化が進んだ。しかし、貧困の拡大進む。99年にWTOのシアトル閣僚会議は一部先進国にのみ利益をもたらすとして市民団体が反発、途上国もアンチダンピング課税に反発。ついに米国代表のバーシェフスキーは会議の打ち切りを宣言。スティグリッツは、先進国は他国に市場開放を求める一方で自国産業を保護。資本市場の開放や騰貴マネーの自由な出入りを認めると、危機は必ず到来しダメージを受けるのは貧しい層。2001年9月の同時多発テロ事件では、ブッシュが戦争とこれを宣言し、スティグリッツは、この点、貧困のみならず、テロリズムには希望が失われていることがテロの温床と考えている。
2002年ブラジルでのNGO総会に多くのNGOが集合。Another world is possible.グローバル化に代わる新しい世界を求める動き有り。スティグリッツは、貧困と闘う必要性や、グローバル化の恩恵を受けるにしてもまず価値観の樹立が必要としている。
サブプライムローンの焦げつき問題の深刻化。金融不安の連鎖が世界を駆けめぐる。原油価格高騰の背景=サブプライムローンの深刻化で投資マネーが原油市場に入る等しマネーのみが原油価格形成に働いたといってもよい(住友商事某氏のインタビュー)

グローバル化はやはり冷戦の終結がきっかけ。世界がフラット。もの、カネ、人が自由に行き交う、自由主義・社会主義もともに。
グローバル化により得をした人々はどこか?
第一は、BRICSの台頭。中国のGDPは2000年には第6位、2006年に第4位、2007円にはドイツと肩を並べる。2008年には日本のすぐ後ろ第3位に浮上。21世紀になって97%拡大。日本は12%の拡大。世界の工場として中国が機能をはじめた。ロシアは、原油+天然ガスをあわせた化石燃料生産で世界一(2086万バーレル相当)。米国をしのぐ。9.11直前の2001年8月段階では1バーレル=27ドルだったのが、今は90ドルを超している。21世紀のわずか7年で石油の値段が7倍に上昇。ロシアや中東の産油国が蘇り、世界の富の再配分が起きている。
マネーブームで実体経済と乖離してエネルギー価格が高騰する要素もある。このあたりがグローバリズムの影となって襲いかかっている。

米国流の資本主義が冷戦後大きく拡がった。株主資本主義。会社は株主のものとの考え方。株価が高いこと、配当が多いこと、株主に説明責任を果たす言。
ところが、世界が資本主義に対する考え方は国に依って違う。欧州の場合、多くの国がロシア革命で社会主義にのめり込んだ。会社を支える様々な存在、社員、国家、さまざまな stakkeholderに配分するのが資本主義との考え方。そうすると、ホリエモンなどの株主価値最大化などでは、株価を引き上げるための経営などが問題となる。

第二は、消費は美徳との考え方。住宅の価格が上がることを前提に、それを担保に融資をし消費拡大に結びつけるとのメカニズム。このメカニズム自体が崩れつつある。
こういうなかで経済、経世済民を如何におこなうか、ということを気付かされるところにまで追い込まれた。

豊かな人を作り出したが、格差をどう制御するかについて答えが得られていない。現実の経済を説明できないし、ルールも作れなくなった。そういういらだちの中にわれわれは立っている。

(中休み)
木村:では日本はどうするか?
寺島:敗戦の総括 米国に敗北したという意識が共有される中で、潔い敗北者、米国を通じてしか世界を見ない傾向が作られた。実際には米中共同戦線に敗れた。
(アフガンへの給油活動について、小沢氏と福田康夫氏の考え方の違い。テロ対策特別法は期限切れ。日米同盟が漂流し始めたと言う識者もある=栗山尚一。ソ連という共同の敵がなくなった今、日米とも新しいコンパスが必要。イラク戦争への日本の1兆円の貢献は国際社会で評価されなかったとされる。そこで今度は自衛隊を派遣。2001年にテロという新しい敵(栗山)が出来た。しかし、テロとどう戦うかについて良く考える必要があろう。総論は良いが各論で意見が食い違う可能性がある。2003年には米国はイラクに進攻したが融和出来ていない。軍事力以外を考えると世界の多極化(栗山)。多くの問題は軍事力だけでは解決できずソフトパワーが必要。
2004年にブッシュは米国の駐留軍の3分の1を撤退させ本土の防衛にあたる方針を明らかにし、沖縄については米軍の移設。しかし、地元との意見の隔たりは狭まらず。沖縄知事は、できれば県外移設がベストと思うが、普天間基地の移設できないと再編できないと思っているとする。住民は、条件付き賛成派=失業率が全国より高く基地からの貢献大きい。補償などインフラ整備を含めた上で賛成。反対派は、今も抗議活動を継続。名護に新しい基地ができた場合また米国の戦争に荷担することになる。海も守りたいし他国の人達も守りたい、最後には自分達が標的にされるのではないかとの不安。この点、沖縄県民がいつも犠牲を強いられる、何らかの振興策を与えられる。こういう構造を断ち切らないと、日米同盟の根本的構造を変えることが出来ないのではないか。

日本はどういう国際秩序を求めるのか。
木村:国会のねじれがあるというのではなく、日米同盟をどう考えるかから考えるべきかと思うが、日米同盟漂流をどう考えるのか?
寺島:世界中が冷戦後の設計に向かったころ、ドイツと比較すると、基地の縮小。基地協定の改定でドイツが主権回復。一方、日本は、政権党が不安定で日米関係を再構築できず、むしろアジアにはまだ不安要素もあるという中で軍事同盟を一層深めた。そこで湾岸戦争のトラウマもあって、米国の発信するメッセージを先回りしてとらえた。しかし本来であれば同盟関係を構想すべきであった。これとドイツとのコントラストは際だっている。
木村:引きづりながら世界は変わりつつある。
寺島:日米関係で飯を食っていない人達に会ってみた、昨年末。日米関係で飯を食う人との意見交換で外交政策を構築しがち。きまじめにこれに対応する方法が続く。ところが、守屋氏、山田洋行など、日米関係で飯を食う人達がいかに動いているのかを見た。実際にワシントンを動かす人にインド洋での補給関係を知っている人すら少なく、何のためにおこなっているのかと聞く人もいる。インド洋で年間100億円、全体で600億円かけることが意味のあることだったのかと常に見直しをおこなう必要。同盟関係維持のためにコストを払うべきは当然だが、日米同盟のコストを日本ほど負担している国はない。年間6500億円の負担。米軍の基地で働く日本人の給料まで日本側が負担するという思いやり予算グアム島への移転に7500億円をコミット。米国側は3兆円を希望。イラクへの自衛隊派遣で1000億円を負担。6兆円近い日米同盟のコストを21世紀に入って負担している。世界で駐留米軍のコストを7割負担している国は他にない。もういちど、適正な同盟コストの負担とは何かを議論し、多くの選択肢の中でインド洋で給油することが必要という議論をおこなうのは良いが、そうではなくて、今までのままでよい、というのは怠慢だろう。米国の国政を担当している人へのアピールする力が弱いと思う。
木村:米国としては普天間基地が解決しない限り不可とのスタンス?
寺島:そうですね。それと日米中のトライアングルの関係。昨年、朝鮮に米国が妥協していくのを見た。しかし、朝鮮は、中国なしには成り立たない。6カ国協議は米中協議になっている。ブッシュは最初クリントンが戦略的パートナーとしつつ、ここ1年間で中国が stakeholderとして、東アジアを米中で共同管理していくという構図が強まっている。その中で、安部首相が集団的自衛権を見直して日米で連携してあたろうとしたが、これには米国は迷惑顔。米国側は日米中の関係として考えはじめていることは間違いない。米中間の関係が深まっており、中国における知米派の代表が外相についたが、米国留学組(留美派)が中国の指導者層につきつつあることも注目。中国の台頭について米国は脅威を感じているが市場の魅力を含め責任ある参画者として見ていこうという感じになってきている。日本としては米国との同盟関係さえ持ちこたえていれば大丈夫という構図ではなくなってきている。
松本重治 日米関係は日中関係である との言葉を残した。絶えず、日米関係には中国という要素が横たわっている。日米中の関係の中で、主張、戦略、方向を持つ必要がある。

木村:今後の国家の戦略をどう組み立てるのか
栗山:価値観の多様化、グローバル化、、多極化の中で、日米関係をどう見るか。日本にとって非常に重要。日本がアジア太平洋の中で生きていく、日本の平和を守り国民を豊にするために、やはり誰かと手を組む場合、見回すと、米国以外にも仲良くすべき国はあるが、やはり一番重要なのは米国だろう。
日本人として、もう少し国際社会の中でどういう国でありたいのか、そういう国になるための環境を支えてくれるのが国際秩序。どういう国際秩序が望ましいのかという感覚を持つ必要があろう。ところが、今の日本は、一時よりもさらに内向き。国会の議論も内向き。どのように国際社会で生きていきたいかという意識が希薄。というのは身の回りの問題が多すぎる。年金問題しかり。年齢層のいかんをかかわらず将来不安があり。それは当然のことながら、外の世界に関心が向かなくなる。
木村:変わる世界というときの世界史的意義如何?
寺島:小泉、安部外交を振りかえると、日米同盟が強固であればあるほど日本のアジアに対する影響力は高まる、としていたが、逆で、日本がアジアとの関係が強ければ日米同盟は強固になる。このようなロジックの反転が必要。米国を孤立させないつなぎ役としての日本。
福田政権になり、年末に中国を福田が訪問し、米国に役に立つ日本になりつつある。また力の論理では問題は解決しないことを人類は思い知ったが、日本は戦争の出来ない国になったとの言い方を「(なくなった)某氏?」は何度もおこなった。経済的にアジアとの関係が強化された。
地球を一体として考えるとの考え方はごくごく最近のもので、それが環境問題だが、そのような状況下で、連携や意思疎通の重要性が必要。パラダイムの転換ですか(木村)。

寺島:
ICC問題、京都議定書問題。

日本は国際刑事裁判所の昨年10月に105番目の加入国となった。拉致などに立ち向かう試み。日本はなぜ ICCに入らないのかというと、米国が入らないため。ところが超党派の国会議員の働きかけあって入り、費用負担国のトップになり、判事も送り込んだ。ICC問題は日本が国連に入った時のように共有すべき問題。

京都議定書については、今年から約束期間に入る。1990年に比べて6%減らす必要があるが、7%増えているので13%減らす必要がある。日本はまず京都議定書に真剣に向き合っているのかを明確にすべき。加えて新しいルール作りに知恵を出すべき。日本は省エネに大きな貢献をしている。37%の効率アップ、米国の2倍、中国の9倍の効率化。効率化の問題も提起して創造的に関わっていくスタンスをどこまで示すことができるかが日本にとって重要だと思う。

日本が持つソフトパワー。日本にとって重要なのは技術。日本の持つレベルには誇るべきものがある。環境を含め。これを国際社会にアピールしながら日本の発言力を高める。
それを支える人を育てる必要もある。

木村:国内の政治の不安定さ。
寺島:ガバナンス、総合力を発揮するのが日本の課題。技術、人材の持つポテンシャル。おかねは世界一の金融資産を持つ。ところが銀行に預けておいても資産を生まない。ないのは総合力。
美しく生きるべき生花の花。剣山をたてて生花にするところの力がない。持つ潜在能力を最大限に発揮することが必要。日本のガバナンスの復活が可能かどうかに帰するのではないか。
歴史のシンポとは何か?やはり一歩一歩前に進めてきたものがある。ひとつは不条理の克服。本人の責任を問われないことで苦しむことを何とかガバナンスで解決していかないことには日本は開けない。貧困、格差。
(木村)ここまで26本重ねてきた。24本は寺島氏が登場。
最後に
寺島:トインビ「歴史の教訓」節度、自由の容認。
一人の人間が多謝を支配することには限界があることを学んだ、という言い方は心に染みる。
歴史を前に進めるために生きている。ただ繰り返せば良いと言うものではない。

3夜 現在の貧困 グローバル化 
最後に木村氏が高らかに総括。