由井常彦著「安田善次郎ー果報は練って待て-」

先週末、ご本人の叙勲のお祝いの席で本書を入手させていただきました。

安田善次郎安田講堂安田銀行の創業者ー晩年に暗殺、といった程度の知識しかなかったのですが、前編を通してとても興味深く読み終えることができました。

今朝の日経朝刊での書評を読むと、晩年の大倉喜一郎との関係などが興味を呼ぶところのようですが、私は、苦労して銀行を創設して育て上げる過程で色々な困難に遭遇する点、明治時代のことですからおそらくミニ金融恐慌のようなものに何度かおそわれたのでしょう、多くの金融機関の救済を相談されて、交通・通信手段が未整備な中自ら赴いてそれを裁いていくところに大きな興味を覚えました。日本銀行の理事や監事を兼任するところは、現在の常識からは理解を超えていますが、それだけ金融システムや金融市場が未整備だったということでしょう。

経営史について基本的な知識を持ち合わせていないのですが、読みやすい文章の中に、当時、金融システムがどういう状況だったのか、その中で、銀行がどのようにして成長したのか、投資先の海運業、損保・生保、製造業がどのように成長していくのか。私のこれまでの「思い込み」では、芙蓉グループは、三菱、三井、住友といった財閥グループと比較するとグループとしての力が劣るような印象を持っていましたが、少なくも善次郎の在世中は新興勢力として十分それに伍しており、また、財閥グループの垣根を越えて他グループにも橋頭堡を築いていたような印象を持つに至りました。

ただ、突然の暗殺もそうですが、晩年は後継者になかなか恵まれず、また、大きくなった組織の運営に苦労した様子が綴られています。

金融機関を興すということの意味を考えさせるという意味で、金融関係者やさらに金融に興味を持つすべての企業マンが一読するに十分値する本だと思います。