伊藤元重さん 地球を読む

消費税引き上げの議論が棚上げになっているなかで、医療・年金・介護・教育・育児支援などの制度を改革していくことが将来不安の解消だけでなく、景気対策としても有効であることを説いた貴重な提言だと思う。貯蓄から消費とは言い得て妙。読売29日朝刊。

世帯間の分配の公正を実現することが重要。景気対策で政府債務が増えれば、それは将来世代の税負担となる。75歳以上の国民の医療費は防衛費の倍の規模に膨れあがっているといわれるが、これも若い世代への負担となって押しつけられる可能性大。
世代間の分配の公正は、景気対策を考える上でも重要な意味。個人金融資産の約75%は60歳以上の人が
保有しており、これを次の世代にスムーズに移転させることが必要。NIRAによれば、日本の高齢者や富裕層は、合理的に考えるよりも100兆円から150兆円余分にためこんでいることになる。
過剰な金融資産の保有の理由は、国民が過大に将来不安(年金や医療費が不安。子どもを当てに出来ない。長生きすればそれだけ生活費も必要。)を抱えていて消費を抑えていること。
日本国民は、平均的には年間可処分所得の約4倍の金融資産を保有。ドイツやフランスは2倍程度しか持っていない。年金や医療制度などに対する信頼感の違いかもしれない。
悪循環(将来への不安→消費抑制→景気低迷→さらなる不安)を断ち切る必要。
その意味で、医療・年金・介護・教育・育児支援などの制度を改革していく必要。

制度設計については緻密な議論が必要だが、安心出来る制度を維持するには、それなりの税収確保が必要。いずれ消費税を引き上げることは避けられない。消費税を上げれば景気が悪化すると考えるのは徴税サイドだけをみた議論で、税収を社会保障や教育に積極的に使っていくことで需要拡大が可能。
高齢者熨斗さんの一部でも若い世代に移転することができれば、大きな支出の拡大いつながる可能性がある。一時的であれば贈与税を免除するのは税金を逃れるチャンスを作るのでよくないとの考えもあるが、若い世代に資産や購買力を写していくのは基本的に日本経済の長期的な活力を維持するにも必要。

むろん、環境分野への投資促進や雇用対策強化は重要だが、ケインズ的名政策には限界がある。無尽蔵に永遠に財政支出を増やすわけにはいかない。

貯蓄から投資 ではなく、貯蓄から消費 への転換が求められる。