日中外相会談:対立抱え協調シナリオMSN-Mainichi INTERACTIVE 政治

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日中外相会談:
対立抱え「協調シナリオ」

 中国で反日デモが始まった4月初めから約1カ月。日中両国は7日の外相会談で対話強化を確認し、対立点を残しながらも関係修復を目指す方向で一応の足並みがそろった。日中関係の悪化が北朝鮮の核開発問題を抱える東アジア地域のいっそうの不安定要因となることを嫌い、米国をはじめ国際社会が関係修復を迫ったことが大きい。ただ、中国は日米が連携して台湾問題に介入することへの拒否感も前面に打ち出している。こうした動きは、今後、中国の台頭を警戒する米国を巻き込む形で日中間の駆け引きが激化する展開を予感させた。【平田崇浩、浦松丈二】

 ◆日本 「歴史」沈静化狙う

 李肇星外相「アジア欧州会議(ASEM)外相会議の成功をお祝い申し上げる」

 町村信孝外相「ご協力に感謝している」

 反日デモの評価や日本の歴史認識問題をめぐる批判の応酬で終わった先月17日の外相会談とはうってかわり、今回の会談はなごやかな笑顔の交歓から始まった。今回の会談で関係修復の軌道に乗せる暗黙のシナリオを日中双方が共有していた。

 会談で歴史認識や台湾問題などの対立点が解消されたわけではない。東シナ海のガス田開発や教科書問題などでも主張をぶつけ合い、そのうえで呉儀副首相の来日など相互交流の拡大を確認したのは「対話を続けることに意味がある」(外務省幹部)との認識からだ。時間の経過とともに双方の「反日」「嫌中」感情が薄らぐ期待もある。

 日本側が対中関係の改善に動いたのは、竹島問題による日韓関係の悪化もあり、国連安保理常任理事国入りを目指す立場から国際的なイメージダウンを恐れた側面が強い。小泉純一郎首相は先月22日にアジア・アフリカ会議50周年記念首脳会議(ジャカルタ)で、村山富市元首相の談話に沿って過去の植民地支配と侵略に対する「痛切なる反省と心からのおわび」を表明。これに続く日中関係の修復で歴史認識問題に区切りをつける狙いもある。

 北朝鮮の核開発問題は外相会談の議題にならなかったが、町村外相は6日の東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の外相会議で「切迫感が必要だ」と指摘。ワシントンで2日に行った日米外相会談では国連安保理付託も選択肢とすることを確認しており、北朝鮮への働きかけを強めるよう中国に圧力をかける日米の強硬姿勢が鮮明になっている。

 日本は安全保障面で米国との一体化を進めており、今後も日米対中国の構図で微妙な駆け引きが予想される。そんな中で小泉首相の靖国神社参拝を強行すれば中国側に対日批判の材料を提供することになるため、「首相はもう参拝できないのではないか」(与党筋)との声も聞こえ始めた。

 ◆中国 台湾問題けん制

 「両国指導者の会談の精神に深く背いている」。李外相は日米安保の範囲には台湾が含まれるという町村外相の発言について真意を問いただした。歴史や台湾問題では原則を譲らないという姿勢に大きな変化はなかった。

 ただ、対話・交流を重ねることで関係改善に踏み出したいとのメッセージを打ち出した点はこれまでの会談と印象を異にした。外相に同行した秦剛・中国外務省副報道局長は記者団に「両国指導者の共通認識をどう実現するかを話し合った」と成果を強調した。

 共通認識とは胡主席が4月23日にジャカルタで小泉首相に提起した日中関係改善のための「五つの主張」を指す。(1)72年の日中共同声明など合意文書の順守(2)歴史問題の厳正な対処(3)台湾問題の正確な処理(4)対立は対話で適切に処理(5)交流拡大ーーという主張は反日デモを受けた中国の新たな指針だ。

 今回の外相会談はその具体化に向けた第一歩であり、中国側は会談に十分に時間を割くよう日本側に要望した。用意された時間は1時間半。国際会議の際に開く2国間会談としては異例の長さになった。

 中国共産党は先月19日、北京で各界の幹部約3500人を集め、李外相が日中関係の重要性を報告。その後、共産党宣伝部が各地で外相報告の内容を伝える「対日重視キャンペーン」を繰り広げてきた。

 結局、中国の抗日愛国主義運動の原点とされる「五・四運動」記念日の4日には反日デモは発生せず、外相会談でも大使館の被害修理を明言するなど反日デモ事件の幕引きを急ぐ中国の姿勢が示された。

 台湾問題に加え、靖国神社参拝中止を求めるなど、原則的な問題では強い姿勢を示したが、東シナ海のガス田共同開発や歴史共同研究には積極的な発言を行った。民間交流推進のため、母校である北京大学の学生芸術団の訪日公演も提案したという。

毎日新聞 2005年5月8日 1時07分