深化する日米同盟 東京新聞

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深化する日米同盟 

深化する日米同盟

 日米両政府が十九日の安全保障協議委員会(2プラス2)で合意する「共通戦略目標」は、在日米軍基地再編の基本理念となる。共通戦略目標をひと言で言えば、日米同盟の強化だ。それは、日本が米国の世界戦略に組み込まれ、一体化が深まることを意味する。「わが国および極東の平和と安全の維持」を目的とした日米安保体制は、さらに変質を遂げようとしている。  (ワシントンで、政治部・清水孝幸)

 国際社会での民主主義の基本的価値の推進、大量破壊兵器の不拡散、テロの防止と根絶…。

 日米が合意する共通戦略目標には、こんな文言が並ぶ。いずれも米国の世界戦略そのもので、世界規模での日米同盟を強化していくことを宣言したといえるだろう。

 二〇〇一年の米中枢同時テロ以降、小泉純一郎首相は「世界の中の日米同盟」路線を推進する。小泉政権はテロ特措法、イラク特措法を相次いで成立させ、米艦船などに対する自衛隊艦船によるアラビア海での燃料補給や、自衛隊のイラク派遣を実現させてきた。

 政府はこうした活動は日米安保に基づくものではなく、「世界の中の日米同盟」によるものだと説明してきた。

 日米安保在日米軍駐留の目的を「極東の平和と安全」に限定している。日米安保によって、自衛隊を「極東」を越えた地域に派遣し米軍に協力したとなると、「基地は世界戦略の拠点」と認めたことになるからだ。

 共通戦略目標に沿って日米は在日米軍基地再編とともに、米軍と自衛隊の任務・役割分担の検討作業を進めていく。言葉を換えれば、自衛隊がどこまで米軍に協力できるか、という問題だ。自衛隊の役割や在日米軍基地の機能がなし崩し的に拡大していく可能性は否定できない。

 実際、在日米軍再編の協議の中で、米西海岸からインド洋まで管轄する米陸軍第一軍団司令部(米ワシントン州)のキャンプ座間(神奈川県座間市とその周辺)への移転構想が浮上した。これが現実になれば、極東の範囲を逸脱する。そこで、共通戦略目標が格好の根拠になる。

 日米両政府は当初、中国の軍事力の増強を注視する必要があると、「中国脅威論」を共通戦略目標に明記する方向で文案調整をしていた。

 米国は、台湾海峡での有事は米中衝突の導火線になりかねないと懸念しており、日米同盟の強化で中国をけん制し、軍事行動を思いとどまらせる思惑をもっている。

 日本にとっても台湾有事は深刻な影響をもたらすだけに、米国の意向を受け入れ、共通戦略目標に中国脅威論を盛り込むことに応じた。

 ところが、東アジアのもう一つの「脅威」である北朝鮮が突然、核問題をめぐる六カ国協議への参加を「無期限中断」すると宣言したことが、このシナリオを狂わせた。

 六カ国協議の議長国である中国は北朝鮮に強い影響力を持つ。「中台問題があるのは事実だが、それはそれ。中国には六カ国協議で積極的な役割を果たしてほしい」(外務省幹部)と、外交上の思惑から露骨な脅威論は見送られた。共通戦略目標は「中国の責任ある建設的役割を歓迎」「台湾海峡をめぐる問題の平和的解決」といった当たり障りのない表現となった。

 脅威論は字面からは消えたものの、行間からは警戒感が強くにじむ。中国もそんな本音は重々承知だ。世界の盟主・米国と、台頭著しい中国とのはざまで、日本が苦しむときがやってこないとも限らない。