FTA交渉・首相の熱意が感じられぬ MSN-Mainichi INTERACTIVE 話題

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FTA交渉・首相の熱意が感じられぬ

 自由貿易協定(FTA)への日本の対応が問われている。韓国との交渉は、進展がみられないまま時間だけが経過する一方で、タイとの交渉も立ち往生している。いずれも日本のFTAにとって試金石となる交渉で、状況を打開するためには小泉純一郎首相の政治力が不可欠だ。

 韓国との交渉は、昨年11月を最後に開かれていない。タイとの交渉も、最も困難とみられていた農業分野で大筋合意したにもかかわらず、鉄鋼など工業製品や投資分野などでこう着した状態が続いている。

 交渉の中で韓国は特に、アジやサバなどの水産物の輸入割当制度を問題とし、中でもノリについては世界貿易機関(WTO)へ提訴している。タイとの場合は、自動車の構造材などに使われる熱延鋼板が焦点となっている。農業分野での合意を撤回するという姿勢すら示している。

 日韓貿易に占める水産品の割合は低いし、熱延鋼板はタイ国内では生産していない。こうした分野が交渉の最大の課題となるとは予想されていなかったことだ。

 例えばノリについて日本は、韓国産と競合するのは日本の業者が現地に進出して生産した中国産で、輸入割当制度を維持した方が韓国にも得策と説得している。タイに対しても、タイの自動車産業の発展には高品質の日本の鉄鋼製品が不可欠と強調している。

 日本側は、現時点での実利を提示して妥協を引き出そうとしているわけだが、韓国、タイともこれを拒んでいる。タイの場合はさらに、日本が重視している投資分野でも強硬な姿勢が目立つ。

 現地法人設立前に日本企業に内国民待遇を与えることや、規制を行う分野を明示しそれ以外の分野は開放するというネガティブリスト方式の採用などが内容だが、米国やカナダには認めたにもかかわらず、日本にはゼロ回答だ。

 日本にとって韓国とは、初の先進工業国とのFTAとなる。タイについても、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)各国や東アジア諸国への展開を考えると、戦略的に重要だ。

 規制撤廃など構造改革を推し進めている韓国、そして、ASEANの先頭を切る形で工業化を推進して経済の自立を実現したタイ。経済的な力関係の変化の中で両国は、日本との経済外交でも従来と違う行動をとり始めている。

 一方、日本側は、関係省庁が背後にある業界の利害を調整しながら、援助と投資を軸に相手の譲歩を引き出すという従来型の枠組みを出ていない。

 政府は、内閣官房に対外交渉室を設置する方針という。FTA交渉が難航していることを受けてのことだと思われる。しかし、常設の機関を設ければ、打開できるというものではない。

 果断な対応ができるようにするには、小泉首相の戦略的な決断が欠かせない。青写真を示す時期は過ぎた。郵政改革ほどの熱意をFTA交渉にも注ぎ、交渉を進展させてほしい。

毎日新聞 2005年5月17日 2時07分