天津の投資環境全般における課題 2006/11/14(火) 12:28:11 [中国情報局]

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華北経済の中心目指す天津(4)−瀬谷千枝

  前回は天津浜海新区の物流センターとなる保税区、そして先ごろ正式に認可された保税港区について紹介した。最終回となる今回は、天津の投資環境全般における課題を検討する。

■五輪に向け進むインフラ整備

  天津には既に数多くの外資企業が進出し、TEDAに進出する日系企業だけでも約400社(05年末現在)、天津市の在留邦人数は4000人を超え、日本人学校もある。他方、天津への進出を検討する企業の立場から候補地として投資環境をみた場合、気になるのがインフラの整備だ。

  このうち道路な華北経済の中心目指す天津(4)−瀬谷千枝

  前回は天津浜海新区の物流センターとなる保税区、そして先ごろ正式に認可された保税港区について紹介した。最終回となる今回は、天津の投資環境全般における課題を検討する。

■五輪に向け進むインフラ整備

  天津には既に数多くの外資企業が進出し、TEDAに進出する日系企業だけでも約400社(05年末現在)、天津市の在留邦人数は4000人を超え、日本人学校もある。他方、天津への進出を検討する企業の立場から候補地として投資環境をみた場合、気になるのがインフラの整備だ。

  このうち道路などの物流インフラについては、北京をはじめ全国主要都市と結ばれた高速道路、鉄道ネットワークの中にあり、北京―天津間は高速道路で約2時間半、鉄道で約1時間半と日帰り出張が可能な距離となっている。特に今後ますますの連携・協力強化が見込まれる北京とは、08年の五輪に向け、複数の高速道路建設のほか、鉄道運行本数の増加や旅客専用の高速鉄道の敷設なども計画されており、北京、天津を一つの経済圏として開発・発展させていく政府の意向が伺える。

  電力、水道などの供給確保については、現地進出企業によると、夏季の電力需要増を受けた当局の指導で、平日休業・週末稼動したメーカーも一部あったようだが、事前通告のある検査停電を除き、瞬間的・不規則な停電や電力供給ストップなどの大きな問題はないとのこと。特殊なケースを除いて自家発電機を設置している企業も少なく、常に電力・水不足が課題となる華南、華東地域に比べ、良好な環境にあるといえそうだ。

  ワーカーについては企業によりばらつきもあるが、地元出身者が多く、市外や他省からの出稼ぎ労働者は少数派のもよう。華南のようなワーカー不足とは無縁のようにも思えるが、やはり中間管理職以上のマネジャークラスや、語学などの専門知識を持った人材となると不足する傾向にあるようだ。また、天津市の最低賃金は06年4月1日から670元、郊外で650元となっているが、平均賃金はワーカークラスで800−1300元、事務スタッフで1600−2400元、マネジャークラスでは2700−6000元程度というのが一般的な水準という。

■課題は北京との協調か

  こうしてみると、華南、上海に比べ機能・規模とも発展途上にあるとはいえ、投資候補先としての天津の潜在力の高さがうかがえるが、一方で課題もある。例えば、隣接する北京と連携した発展については、天津を「国際港湾都市」「北方経済の中心」「環境都市」とする一方、五輪開催を控えた北京は高付加価値・ハイテク産業に分野を絞り、政治の中心として「住み分け」を図る政府の意向を推し量ることができる。しかし、これまで天津は首都・北京の陰に隠れながらも、同じ直轄市である北京をライバル視してきた経緯があり、両市が国の思惑通り、互いに協調しつつ効率の良い発展を目指していけるかどうかは懸案事項の一つだろう。

  また、既進出企業から指摘されるのも、この北京との近さによる弊害だ。北京とは物理的に距離のある華南や上海では、中央政府の通達・指導から実務レベルで実行されるまでにタイム・ラグがあったり、思い切った改革も試行できた。しかし北京に隣接する天津の場合、「華南、華東では地方政府の裁量をもってある程度可能なことであっても、北京(政府)との近さゆえに、一つ一つ中央政府に確認を取らなければならず、かえって時間がかかったり、上海や深センでは可能でも天津では不可能なことがままある」(日系進出企業)という。

  このほか、同市の掲げる壮大な発展計画の財源を懸念する向きもある。同市の財政状況は上海や北京など各都市と比べれば見劣りするといわざるを得ない。就任当初より中央財政部門との太いパイプが期待されていた、前・中国人民銀行行長である戴市長の政治力をもってしても、実際にどこまで中央から資金的バックアップを得られるかどうかは不透明だ。

  天津が果たして、80年代の深セン、90年代の上海・浦東に次ぐ第3の改革・発展の先鋒となるかどうか、正念場はまさにこれからといえよう。(執筆者:みずほコーポレート銀行香港支店 中国アセアン・リサーチアドバイザリー課 瀬谷千枝)

※本コラムはいかなる助言を含むものではなく、これによって生じた損害について、当行は責任を負いません。

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【執筆者】
瀬谷 千枝(せや ちえ)

みずほコーポレート銀行香港支店
中国アセアン・リサーチアドバイザリー課

日本の新聞社で6年間の事件記者生活を経て渡港。時事通信香港支社などでチーフエディター、また中国・香港を専門とするジャーナリストとして活躍。豊富な記者経験を生かし、中国・アジア担当リサーチャー・アドバイザーとして現在に至る。



  写真は、秋晴れの天津市内。北京と連携した発展とともに、更なる利便性の向上が期待される。(提供:みずほコーポレート銀行香港支店 中国アセアン・リサーチアドバイザリーどの物流インフラについては、北