人民元改革 米国の圧力は身勝手で逆効果だMSN-Mainichi INTERACTIVE 話題

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社説:
視点・人民元改革 米国の圧力は身勝手で逆効果だ

 米国が中国の人民元の改革、ありていに言えば、切り上げを求めて圧力を強めている。賛成しかねる。対中貿易赤字が急増したので、為替調整で赤字を減らしたいというわけだが、問題は米国自身にある。過小貯蓄、過大消費が問題なのだ。責任転嫁はいけない。

 もちろん、人民元改革は必要だ。中国は人民元レートをドルにくぎづけにし、通貨価値を安定させている。外資が流入しやすくなった。その外資が中国の驚異的な経済発展を支えてきた。しかし、その為替水準を維持するために、中国政府は継続的に大量のドル買い・元売りを実施している。その結果、中国経済へのインフレ圧力は看過できないまでに強まった。

 また、ドル買いの結果、中国は日本に次いで世界第2位の膨大な外貨準備を積み上げた。経済規模に比して過大であり資金運用として非効率の害も大きい。そして、中国経済の安定した発展のためには、開放経済体制を進化させる必要があり、資本移動の自由化、元の国際化が不可欠だ。

 中国政府はすでに人民元改革を行う意向を表明している。そのタイミングを見計らっているところだ。あまり性急に圧力をかけるのは生産的でない。米国が声高になればなるほど、元切り上げの思惑が強まり投機資金が中国に流れ込む。その結果、中国政府の政策変更の自由度が減殺される。

 米国の対中貿易赤字は今年1〜3月420億ドルと過去最高になった。米議会は中国が人民元の切り上げなどに応じなければ、中国製品に一律27・5%の高率関税を課すという制裁法案をちらつかせている。また、中国製繊維製品の輸入急増に対しては、セーフガードの発動を決めるなど、風圧が高まっている。

 こうした米国の動きは1980年代後半からの日米通商摩擦を想起させる。米国は貿易赤字の相手国として最大の日本に対し、円の切り上げを求め続けた。貿易赤字を減らすため、2国間の貿易不均衡を是正しようとするのは経済学的には無意味に近い。仮にその国からの輸入が減ったとしても、別の国から輸入が増えるだけだ。

 通貨調整では米国の貿易赤字は減らず、米国の構造調整こそが必要なことは常識であろう。米国は超大国にふさわしい振る舞いをすべきだ。

 人民元の切り上げは日本経済にも重大な影響を及ぼしかねない問題であることも忘れてはならない。米産業界は人民元を標的にしてはいるが、それによって円を含むアジア通貨全般が大幅に切り上がることを期待している。

 日本が人民元問題で米国ほど軽率ではないのは幸いだ。人民元の切り上げが本当に日本の利益にかなうかどうか、慎重に見極める必要がある。改革の必要性は中国当局が最も感じているはずだ。中国の判断を待つべきである。(論説委員・潮田道夫)

毎日新聞 2005年5月22日 0時15分