ヘコ日記(仮)(2005-06-18)

リンク: ヘコ日記(仮)(2005-06-18).

ウェブ社会の経済学?

著者が「是非読んでいただきたい」と言っている文章を読んだ.ぼくみたいな「石」が言うのもなんだし,アプローチというかベースとしている知識が異なっている気がするけれども,内容はぼくがここ数年考えていることにとても近かった.まとまりがないかもしれないけど,今後のためにメモを残しておきたい.

経済学部に入学して最初に勉強する「ミクロ経済学入門」のような授業では,以下のような内容が講義される.

消費者は,予算制約の下で自身の効用(=満足度)最大化を目的とし,企業は利潤最大化を目的として行動する.このとき,市場が完全競争の仮定を満たしていれば,市場原理が働き,「他の誰かの効用を下げること無しに自分の効用を高めることが出来ない状態」というパレート効率的な資源配分が市場均衡として達成される.これを厚生経済学の第一定理と呼び,このような市場の機能をアダム・スミスは『神の見えざる手』と表現した.ここで完全競争市場とは,1. 市場には多数の参加者がおり,全ての消費者・生産者はプライス・テイカー(価格受容者)である,2. 市場への参入・退出が自由である,3. 財に関する情報が完全である,という条件が満たされている市場のことである(4. お金を払えばモノが買える,モノを売ればお金をもらえる,という市場の普遍性が暗黙に仮定されている).ちなみにこのときの企業の利潤はゼロとなる.

この後の授業は,「しかし市場はうまく機能しない場合があり,これを『市場の失敗』と呼ぶ(不完全競争や外部経済など).このときには政府が何らかの介入を行う必要が生じるが,その政府も『政府の失敗』をおかす可能性がある…」と進んでいく.

ここで,梅田さんの文章を引用してみたい(長いので途中を省略したりしています).

ウェブ社会[本当の大変化]はこれから始まる:「チープ革命」が生む方向性

しかし、日本だけでも数千万人、世界全体でいえば十億人規模の人々が、#某{なにがし}か自らを表現する道具を持ち、その道具が「ムーアの法則」の追い風を受けてさらに進化を続けていくと何が起きるのか。それは、今とは比較にならないほど厖大な量のコンテンツの新規参入という現象である。

でもそれは、玉石混交の厖大なコンテンツから「玉」を瞬時に選び出す技術が、当時はまだほとんど存在しなかったからだったのである。(中略)技術革新の主役はグーグル(Google)というシリコンバレーの会社である。グーグルは「増殖する地球上の厖大な情報を瞬時にすべて整理し尽くす」という理念を打ち立て(中略)日々刻々と更新される世界中のネット上の情報を自動的に取り込み、情報の意味や重要性、情報同士の関係などを解析し続けるために、グーグルの十万台以上のコンピューターが、三百六十五日、二十四時間体制で動き続けている。

ここで指摘されていることを言い換えれば,上に書いた『完全競争市場の仮定』がガンガン満たされ始めているということではないだろうか.「完全競争市場なんて現実には存在しない!経済学なんて社会では役に立たない机上の空論だよ!!」と叫んでいた経済学部生にも光が差してきたのだ.

とはいえ,仮に誰でも自由に市場に参入でき,情報が完全に整理され全ての人にオープンになったとしても,それが即座に完全競争市場を形成するとは考えにくい.依然としてある種の独占的なマーケット・パワーを持つ企業が存在するに違いない.例えば最近,はてなの伊藤さんは次のように書いている.

naoyaのはてなダイアリー - 隠さなくていいものは隠したってしょうがない

僕は、真に参入障壁と呼べるものというのは、たとえその情報が開示されたとしてもそう簡単に真似できるものではなかったり、真似したからといってうまくいくものでもない、という事なんだろうと思っています。

例えば Google の検索の仕組みやアルゴリズム、それからアドワーズを含めたビジネスモデルは、Google 社員がそのアーキテクチャやモデルをプレゼンテーションしていたり、あるいは SEO の専門家によって日々 Hack されていて、だいたいどのような仕組みなのかというのは、知っている人は知っていると思います。が、それと同じものを作れといわれて作れるかというとそれはおそらくほとんどの企業には無理だし、同じものを作ったからといって、同じように成功するように思えるかというと、そんなことはない気がします。

つまり,入手した情報を活用し利益に結びつけることができるか否かは,情報の入手可能性(availability)ではなく,情報を活用する人や組織の能力(ability)に決定的に依存しているということだと思う.そういう意味においては,今後ますます(あらゆるレベルの)教育が重要になっていくんだろうと考えている.