BIS年報を巡る日本の報道

年報原文の該当箇所を一読した感じでは、もうすこしバランスの取られた書き方がされているように思います。ナイト総支配人の記者会見(追記:これはspeech のようです)をベースに書くにであれば話は別ですがそれでもこの記述は一部分を取り出したのみ。日本の報道機関なのだからもう少し書きようがあったのではないでしょうか。あとできちんと読みます。(ある程度まで読んだので後半部分に付記)

http://www.bis.org/publ/annualreport.htm

http://www.bis.org/events/agm2007.htm

朝日の報道

ナイト総支配人は24日、各国の中銀は今のところキャリートレードを受け入れる必要があるが、世界的な金利上昇でキャリートレードはいずれ重要ではなくなる、との考えを示した。即ち、キャリートレードに有利な現在の状況について「中銀が受け入れざるを得ない要因だ」と指摘。 「当局者らは、金融および財政当局の心構えという点で、中期的な視点からこれらの問題をみるべきだ」とし、リスク認知が変化すればキャリートレードは急速に巻き戻されるという事実を政策担当者は受け入れる必要があるとした上で「関連する国々は、金融資産価格の大きな変動を管理するための覚悟が必要だ」とした。ただ、世界的に金利の正常化が進んでいることを踏まえると、キャリートレードはいずれ魅力を失う、と指摘。「力強い経済成長という条件のもと金利が正常化されるに従い、キャリートレード為替相場金利の決定に影響する要因としての重要性を過去2年間に比べて次第に失っていくだろう」とした。

日経の報道

金利の円で資金調達し、高金利の通貨で運用する「円キャリー(借り)取引」が拡大した理由は「(欧米と日本との)金利差だ」と指摘。外国為替市場の混乱を避けるため日本の金利正常化が望ましいとの認識をにじませた。

年報第五章の冒頭では、最大の出来事が「欧米通貨に対する円の大幅下落」だったと明記。「円の価値が下がり続けたのは明らかに異常」との表現も盛り込み、現在の為替水準が回復基調にある日本の経済状況を必ずしも反映していないとの考えを示した。円キャリー取引が膨らむと円相場の下落に拍車がかかり、市場が動揺するリスクがさらに高まる。

年報では「日銀が引き続き金利を徐々に通常の水準に引き上げるべき状況」として、金利正常化を模索する日銀の政策判断を尊重する姿勢を明らかにした。 

にじませる云々という表現は、日本語としては秀逸ですが、やや、感情移入が過ぎているのでは?記者会見が行われているとしてその内容を総合するのであれば別ですが。

外国為替市場(第5章)のはじめに以下の概括がされている。即ち、外国為替相場については3つの主要な要因がその変化に影響すると説明。第一は、マクロ経済面での見通しとその金融政策への意味するところを反映して、金利差が多くの通貨ペアの動きに影響を与え続けた。外国為替相場のボラティリティが低い背景の中で、キャリートレードが引き続き積み上がったことが重要なメカニズムとなり、金利差が役割を果たした。第二に、1990年代後半に始まった傾向であるが、公的な外貨準備が2006年中も相当程度増加し、アジア地域の通貨や原油輸出国通貨への上昇圧力を限定的なものとした。いくつかのケース、特に顕著には中国、韓国、マレーシア、およびタイにおいては、資本コントロールの変化がこういった上昇圧力を和らげる目的をもって導入された。第三に、グローバルな不均衡が、引き続き外国為替相場が形成される環境の特徴であった。巨額の財政あるいは経常収支赤字は、通貨によっては金融市場のボラティリティを増すという逸話に反応する程度に影響したかもしれない。同時に、米国の経常収支赤字問題は、以前の期間と比べると、米ドルをとりまく変化を説明するものとして市場関係者の注目を引かなくなった。

これが冒頭部分の説明である。金利差に注目しているという意味では画期的かもしれないが、ことさら日本円をやり玉に挙げている感じはしない。

さらに進んで、キャリートレードを、類似した2つのタイプのクロス通貨の資金フローと区別する必要があるとして、第一に、国内のリテール投資家が外貨建てでイールドの高い通貨に投資するものを挙げる。この点、日本のリテール投資家が外貨建ての債券を購入している例を挙げ、議論のあるところだが国内の景気拡大(domestic output growth)に伴ってより大きなリスクを許容するようになっているを説明している。そして日本のリテール投資家がその資産の大半を円で持っている以上、彼らは、レバレージをかけ円ショートにしている然の円の上昇に対してもさほど敏感ではない。実際のところ、市場のコメンタリーを読むと、日本のリテール投資家は最近ボラティリティが高まる中で円高のチャンスをとらえて高利回りの海外資産を増やしている。しかし、こういったエクスポージャーの変化すら、大規模な形で起きれば外国為替相場に大きな影響を与える。
 間接的な証拠ではあるが、今回検討を行った時期においては、リテール投資家による外国通貨建て資産の購入規模はかなりのもの(substantial)であった。日本の個人投資家による外国通貨建て債券の購入は、2006年から現在進行中の、日本円から特に豪ドルやニュージーランドドルといった高利回り通貨への流出を明らかにした。市場レポートは公的ながらインフォーマルな資産として、日本のリテール投資家の外国通貨建て証券への投資は1500億ドル前後であると指摘している。

このように、金利差のリスクに警鐘を鳴らすというよりは、単なるレバレージ取引だけではなくリスクテークの余力をもった日本のリテール投資家による外国通貨建て運用が増えていることを淡々と説明しているとの印象を受けます。ナイト総支配人のprepared speechも読んでみましたが、特に警鐘めいた感じは強く受けませんでした。